東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)130号 判決
一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。
原告主張の審決取消事由(請求の原因の四)の1及び2については暫くおき、まず、同3(塊粒状集合体の不特定粒度及び材質関係)並びに4(合成状態のカイヤナイト関係)について合わせて考察する。
1 前記争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明において母材中に充填される硬質塊粒状集合体は、摩擦材と合成樹脂とで母材中の粉状摩擦材よりも大なる不特定粒度の塊粒状に成形された材質の異つた複数のものとされていることが明らかである。
2 ところで、前記争いのない審決理由の要点によれば、審決は、引用例に記載された約六〇メツシユの硫化鉛填料体及び八〇ないし一〇〇メツシユの結合形で合成状態のカイヤナイト又は他の鉱物が、本願発明における前記塊粒状集合体にあたり、これらの集合体が、母材中の約一二〇メツシユの摩擦材よりも大で、不特定粒度でかつ材質の異つた複数の硬質のものであるとしていることが明らかである。
3 しかしながら、成立に争いのない甲第三号証(引用例)には、引用例における右カイヤナイト等の鉱物は、天然産、煆焼及び合成型鉱物よりなる群から選ばれたアルミニウムシリケートである旨の記載はあるが、成立に争いのない甲第六号証によりカイヤナイトが一定の生成条件の下で容易に化学合成できることが周知であると認められることに照らして考えれば、引用例における右「合成」の記載は、化学合成により生成されたことを意味し、合成樹脂により予め成形されたことを意味するものでないことは明らかであり、他にも引用例におけるカイヤナイト等の鉱物が合成樹脂により成形されたものであることを認めるに足りる証拠はないから、引用例のカイヤナイト及び他の鉱物は、本願発明の硬質塊粒状集合体に相当するものとすることはできず、これを右硬質塊粒状集合体にあたるとした審決の認定は誤りとしなければならない。
4 次に、審決が前記のとおり、本願発明の塊粒状集合体にあたるとした、引用例における他の成分である硫化鉛填料体について考察する。前記甲第三号証(特に一頁右欄下から二行目ないし二頁左欄四二行目)によれば、引用例には、右硫化鉛填料体(結合硫化鉛結合体)が、ブナ・エス・ゴム(熱安定性ゴム)及びカシユー樹脂(熱硬化性樹脂)をゴム混練機中で破壊し板状とし普通の溶媒に分散させてセメントを生成した後、普通の硬化剤、粉末黒鉛及び一定のメツシユ寸法分布を有する硫化鉛填料を右ゴムセメントに添加した組成物を板状化し乾燥し焼成し溶媒を除去しゴムを加硫し樹脂を不溶、熱硬化状態としたものを約六〇メツシユに粉砕して作成される旨並びにこのようにして得られた硫化鉛填料体を母材に添加して圧縮硬化し制動具を製造する旨がそれぞれ記載されていることが認められる。しかしながら、引用例において母材に添加する右硫化鉛填料体についても、これが材質の異つた複数のものであることを示すとみるに足りる証拠は、全く存在しない。すなわち、同号証二頁左欄一四ないし一七行目の記載は、引用例の実施例に示された結合硫化鉛結合体に使用される硫化鉛が一定のメツシユ寸法分布を有していたことを示すに止まり、メツシユ寸法分布が互いに異る複数種類の硫化鉛によつて作られた、その意味で成分比の異る結合硫化鉛結合体が使用されることを示唆するものではなく、他にも、成分比ないしは混入される材料が硫化鉛以外のものを含むなどの異つた複数種類の集合体を使用することを開示しているとみるべき記載は同号証中にはなんら見当たらず、また、硫化鉛以外の材料より成る塊粒状集合体を含むなど、成分比ないし成分材料の異つた複数種類の塊粒状集合体を使用することを示すとみるに足りる証拠もないのである。
5 そうすると、原告主張の「不特定粒度」の点について考えるまでもなく、引用例には、「摩擦材と合成樹脂とで成形された材質の異つた複数の」塊粒状集合体は示されていないといわなければならないところ、審決は、引用例に右塊粒状集合体が記載されているとしたものであるから、その認定は誤りであり、また、前記本願発明の要旨にみられる構成に成立に争いのない甲第二号証の二、三の記載を合わせ考えれば、塊粒状集合体を「材質の異つた複数の」ものとすることにより、広範囲の制動条件下において有効な制動ができる効果をあげうるものであることを推認するに難くないから、審決の右認定の誤りは、引用例記載の発明を本願発明と同一とした審決の結論に影響を及ぼすべきものとみるのが相当である。
以上のとおりであるから、その余の事項について判断するまでもなく、審決は違法としてこれを取り消すべきものである。
三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
粉状摩擦材を主成分として成形される合成制輪子の母材中に、摩擦材と合成樹脂とで、前記母材中の摩擦材よりも大なる不特定粒度の塊粒状に成形された材質の異つた複数の硬質塊粒状集合体を充填し、不規則に分散配列して成形された合成制輪子